理工学域長 松本宏一
人類はその種の繁栄のために活動し、特に産業革命から今日まで、産業と文明の発展と進歩により、世界の多くの人が健康で豊かな生活を築くことができるようになりました。その一方で、今日、気候変動、化石エネルギーの枯渇、生物多様性の衰退、人口爆発、新たな感染症の流行など、地球規模で問題が顕在化しており、持続可能な世界の構築が喫緊の課題となっています。さらには、人類の知的活動に大きな影響を与える生成AIの急速な発展という状況も生まれています。理工系においては自然環境と調和の取れた科学、技術の発展に対して中心となることが求められています。
金沢大学理工学域の母体は理学部と工学部であり、理学部は1887年設置の第四高等学校(発足時は第四高等中学校)を、工学部は1920年設置の金沢高等工業学校を起源として、いずれも100年以上の長い歴史と伝統を有しています。本学域は2008年に全国に先駆け、従来の理学部と工学部の壁を取り払った新しい学びのシステムである学域学類制を導入しました。さらにその後も教育改革を進めて、自然界の挙動を探求するサイエンスと、その原理・法則を利用して人間社会に役立つ技術や製品を開発するテクノロジーを融合した教育課程を編成し、ますます広がりと深化を進める理工学分野において、学生個人の希望と選択によって系統的に学ぶことができる以下のような特色ある教育体制を構築しています。
- 2018年には、既存の6学類を、数物科学類、物質化学類、機械工学類、フロンティア工学類、電子情報通信学類、地球社会基盤学類、生命理工学類の7学類に再編し、サイエンスとテクノロジーの融合を促進しました。また、2024年には、高度情報人材育成を進めるために電子情報通信学類の定員増も行なっています。
- 学生と社会のニーズに柔軟かつ迅速、適切に応えるために、プログラム制を採用する学類を増やしました。また、経過選択制、副専攻制、転学類・転コース制度などを整備しました。
- 入学試験において、機械工学類、フロンティア工学類、電子情報通信学類の「理工3学類一括入試」や学域の枠を超えた「理系一括入試」、「KUGS特別入試*」など多様な学生を受け入れる入試制度の導入も行いました。また、2024年度には女子学生比率の低い学類において女子枠特別入試を実施し、多様性のある学域を目指しています。
- 副専攻制では、所属する主専攻に加え、学類やコースの区分を越えて、学生一人ひとりが興味関心のある分野を主体的に学習することができます。数理・データサイエンス教育の整備も進めています。
- 金沢大学グローバルスタンダードが目指す世界とつながる人材育成を目指して、英語による授業を順次拡大しています。
- 学類の教育と接続する大学院博士前期課程と後期課程の組織改革をそれぞれ2022年、2024年に行うとともに、大学院科目の先取り履修制度を導入し、大学院までの一貫した教育を受けられるようにしています。
このような教育課程により、学際的知識と国際感覚も身に付け、世界に羽ばたくグローバルな人材を養成します。
理工学域は広大かつ緑豊かな角間キャンパスの中でも、そのスケールとクオリティ、最新設備と教育研究環境を誇っています。石川県では令和6年能登半島地震で大きな被害がありましたが、金沢大学角間キャンパスでは幸い教育研究環境には大きな影響はありませんでした。この環境で学問を究めると同時に、クラブ活動やボランティアなどの社会活動、そして友人との交友を通して人間性の涵養に努めていただけるように応援します。学都金沢での学びが、皆さんの将来の夢を実現する大きなステップとなることを期待しています。
* KUGS とは「金沢大学グローバルスタンダード(Kanazawa University Global Standard, KUGS)」