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植物の細胞サイズ決定される仕組みを解明!農作物やバイオプラスチック原料の効率的な生産技術の開発に期待(2022.03.29)

2022年03月31日

金沢大学理工研究域生命理工学系の野本友司研究員、高塚 大知 助教、伊藤 正樹 教授をはじめとする共同研究グループは、植物が自身を構成する細胞の大きさをコントロールする仕組みを解明しました。植物の細胞の大きさは、植物の生産能力に影響することから、今回の発見により農作物や植物由来バイオプラスチック原料の収量の増加に繫がる可能性があります。動物や植物の体は構成単位である細胞から作られており、これらの多細胞生物の成長には細胞が分裂により数を増やすと同時に、細胞のサイズを拡大させることによりもたらされます。また、個々の細胞が正しく機能するためには、適切な細胞のサイズが必要であると考えられています。細胞のサイズは生物種や、細胞の種類により異なることから、遺伝的に、また発生過程の中で厳密な制御を受けていると考えられていますが、その仕組みは十分に明らかにされていませんでした。

本研究では、モデル植物シロイヌナズナ(※)を用いた研究から、細胞の大きさに強く影響する遺伝子SCL28を同定しました。SCL28を過剰に発現する植物を作成したところ、細胞のサイズが顕著に大きくなり、反対にSCL28に変異を持ち機能を失った植物では、細胞が小さくなっていることが分かりました。SCL28の細胞サイズへの影響は、特定の種類の細胞だけではなく、根、茎、葉などのさまざまな器官の、多くの組織の細胞に共通に現れていることから、植物体を構成する細胞に共通の制御機構が存在すると考えられました。また、イネなどの植物種においてもSCL28と配列が類似した遺伝子が存在し、その遺伝子を欠失した変異体では細胞サイズに同様の影響があることが分かりました。

植物体の大きさは、構成する細胞の数と個々の細胞のサイズにより決定されるため、植物の成長は細胞分裂と細胞サイズの拡大によりもたらされます。細胞サイズを決定するメカニズムを解明し、鍵となる遺伝子を発見した本研究の成果は、細胞サイズの人為的な制御を通じて、植物の成長をコントロールする技術開発の基盤となる可能性があります。将来的には、有用植物において細胞サイズをコントロールすることにより、農業生産の向上だけではなく、植物由来のバイオプラスチックやバイオ燃料などの効率的な生産に繫がる可能性があります。

本研究成果は、2022年3月29日19時(日本時間)に学術誌『Nature Communications』に掲載されました。

図1. 植物の花や葉などの器官は、多数の細胞から構成されており、細胞が分裂により数を増やしたり、細胞が拡大したりすることにより大きく成長する。

図2. シロイヌナズナの野生株、SCL28過剰発現体およびscl28変異体の細胞の大きさ
(a) 花茎の縦断面を染色して観察した様子
(b) 葉を透明化処理して微分干渉顕微鏡で観察した様子
野生株の茎や葉の細胞と比較すると、SCL28を過剰発現する植物では細胞が顕著に大きくなり、SCL28機能を失ったscl28変異体では細胞が小さくなる様子が観察される。

図3. SCL28が作用する仕組み
SCL28は他のタンパク質(AtSMOS1)と複合体を作ることにより、複数のSMR遺伝子の制御領域に結合する。これにより、SMR遺伝子の発現が増加し、SMRタンパク質の量が増えると、細胞分裂が抑制される。このようにSCL28はSMRの量を変化させることにより細胞分裂を調節している。

図4. 異なる発現量のSCL28が細胞サイズと細胞数に及ぼす影響
(a) SCL28の発現量(mRNA量)が異なるシロイヌナズナの葉における細胞の数と細胞の大きさを測定した結果。グラフに示されている1つ1つの点が植物1個体に対応している。SCL28の発現が強いほど細胞サイズは大きくなるが(左)、反対に細胞数は少なくなる(中央)。その結果、サイズと数の変化が相殺することにより、葉全体の大きさはSCL28の発現量の違いによって大きな影響を受けなかった(右)。 (b) SCL28の発現量が異なる植物に見られる細胞サイズと細胞数のトレードオフ。

本研究は、JST 共創の場形成支援プログラム「再生可能多糖類植物由来プラスチックによる資源循環社会共創拠点」(JPMJPF2102)、および文部科学省 新学術領域研究“細胞システムの自律周期とその変調が駆動する植物の発生”の研究の一環として助成を受けて行われました。

【用語解説】

※ シロイヌナズナ
アブラナ科の一年草。ほ乳動物の研究にマウスがモデルとして使われるように、シロイヌナズナは植物の代表的なモデルとして研究に用いられる。2000年に植物では最初にゲノムが決定されている。

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