スズとグラフェンの界面を利用した二酸化炭素を高効率に還元する新しい触媒を開発 ~二酸化炭素からの化成品合成技術の加速へ~(2021.03.02)
2021年03月10日
金沢大学理工研究域機械工学系の辻口 拓也 准教授、ナノ生命科学研究所の髙橋 康史 教授らの共同研究グループは、二酸化炭素(CO2)の電気化学還元(※1)によるギ酸の合成プロセスにおいて酸化還元グラフェン(※2)とスズ(Sn)との界面を活用することで高効率にギ酸を合成すること、さらにその反応メカニズムの解明に成功しました。
CO2と再生可能エネルギー由来の電気を用いてエネルギーキャリアであるギ酸を合成するプロセスは、工場などから排出されるCO2の資源化・再利用技術として注目を集めていますが、ギ酸の合成効率にはいまだに改善の余地が大きく残されています。特に、このプロセスに用いる触媒には、原料であるCO2を効率的に連続供給する触媒担体(※3)が必要だとされています。
本研究では、CO2 を効率良く吸着する担体として酸化還元グラフェン(rGO)に注目し、これを扱いやすいスズ(Sn)触媒の担体として利用しました。このSn/rGO 触媒と従来のSn 触媒を比較すると、担体導入によってCO2 吸着量が4 倍程度向上しました。触媒活性サイトを直接イメージングにより可視化できる走査型電気化学セル顕微鏡(※4)により、触媒と担体が隣接している箇所において、担体に吸着したCO2 が連続的に触媒へ供給されることで触媒と担体が隣接している箇所で多くのギ酸が合成されている様子の可視化に世界で初めて成功しました。この効果により、提案した触媒では従来の触媒と比較して担体を導入しただけで1.8 倍のギ酸合成効率が得られました。これらの知見はギ酸のみならずCO2吸着を反応の初期ステップとして共有しているメタンやメタノール、オレフィンにも適用できる可能性があると期待され、CO2の電解還元によって合成される全ての化成品の触媒活性の向上にもつながり、CO2電気化学還元による有用な化成品製造プロセスの基盤技術になると期待されます。
今後、本研究成果を起点に、時間的変動や地域偏在性の大きい再生可能ネルギー由来の電力を、地球温暖化防止の観点から効率的な利活用が求められるCO2を用いてギ酸に変換して輸送・貯蔵する技術の確立に結びつけることで、エネルギー問題と地球温暖化問題の解決に大いに貢献することが期待されます。
本研究成果は、2021年3月2日に米国化学会誌『ACS Catalysis』のオンライン版に掲載されました。

図1: Sn/rGO触媒の走査電子顕微鏡像(左)と透過電子顕微鏡像(右)
酸化還元グラフェンシートの上に10-50nmのSnナノ粒子が均一に担持されている様子が分かる。

従来の触媒(Sn)や酸化グラフェンにSnを担持したもの(Sn/GO)よりもCO2流通下の電流密度の絶対値が大きく、より絶対値の低い電位から電流が流れており、大幅に過電圧を低減し、電流密度が増加していることが分かる。また、Sn/rGO触媒ではギ酸のファラデー効率が非常に高い。

従来のようにSnに直接吸着するCO2(ルート1)に加えて、rGOの酸素官能基に吸着されたCO2がSnに供給される(ルート2)

走査型電気化学セル顕微鏡によるSn/rGOの電気化学イメージングの概念図(左上)、酸化還元グラフェン、スズ、酸化還元グラフェンとスズの界面におけるCO2還元特性(右上)、電気化学セル顕微鏡による形状(左下1 Sn 上、2 界面、3 rGO)と電流イメージ(右下)。SnとrGOの界面において効率的にCO2が還元されているがことが分かる。
【用語解説】
※1 CO2の電気化学還元
CO2を電気分解することにより有用物質を合成する技術。COやメタノールなどさまざまな物質が合成できるが、現状では効率が悪い。
※2 酸化還元グラフェン
グラフェンを酸化して、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エポキシ基などの酸素官能基を持つものを酸化グラフェンという。これを還元したものを還元型酸化グラフェンという。酸化グラフェンが絶縁性であるのに対し、酸化還元グラフェンは導電性を持つため、電極材料などへの使用が期待されている。
※3 触媒担体
触媒などの物質を固定する土台となる物質のこと。
※4 走査型電気化学セル顕微鏡
電解液を充填したナノピペットを用いて試料表面にナノスケールの電気化学セルを形成し、ナノピペットと試料との間にメニスカス状の電気化学セルを形成し、局所的な電気化学計測を行う。ナノピペットを走査することで、触媒活性サイトの電気化学イメージを取得することができる。
- ACS Catalysis
- 研究者情報: 辻口 拓也
- 研究者情報: 髙橋 康史