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物を擦りあわせるとなぜ熱くなるのか? 動摩擦の謎を原子スケール解明!(2023.10.02)

2023年10月05日

図.鋭利な針によって銅表面上の一酸化炭素
分子を原子の大きさ分だけ動かすときの様子

 

 金沢大学理工研究域数物科学系の岡林則夫助教、ドノスティア国際物理センターのフレデリクセン教授、レーゲンスブルク大学のリービック博士、ギージブル教授による国際共同研究チームは、鋭利な針を用いて表面上の一個の分子を原子の大きさ分だけ動かすときに生じる動摩擦の謎を解明しました。

 日常にありふれた摩擦は、何世紀にもわたって科学者を当惑させてきました。物体と物体の間のさまざまなスケールにまたがる多面的な相互作用が摩擦に寄与するからです。二つの物体の間の接触状態を正確に把握することは長年の課題でありましたが、走査型プローブ顕微鏡(※1)の進歩により最近可能になりました。そして、鋭利な針を用いて表面上で一つの分子を動かし始めるために必要な静止摩擦を測定できるようになりました。しかし、このような技術的なブレークスルーをもってしても、分子を動かし続けるために必要な動摩擦の複雑さは解明されていませんでした。

 今回、国際共同研究チームは、原子間力顕微鏡(※2)を用いて、清浄な銅表面上で一個の一酸化炭素(CO)分子を動かす過程を詳細に調べました。最先端の第一原理計算(※3)による裏付けとともに、次のようなことを明らかにしました。

  • 鋭利な針、表面を構成する銅原子、CO分子の位置関係
  • 鋭利な針を動かすことで引き起こされる分子の運動と静摩擦、動摩擦の関係

 本研究は、摩擦の発現過程を曖昧さなく解明したという点が特徴です。長年研究されてきた現象に新たな洞察を与えるだけでなく、動摩擦によりエネルギーが散逸する際の緩和過程まで含めた研究への道を開くものです。将来的には、摩擦の有効活用に寄与できると期待されます。

 本研究成果は、2023年10月2日(米国東部標準時間午前11時)に米国科学雑誌『Physical Review Letters』ならびに『Physical Review B』のオンライン版に掲載されました。

 

 本研究は、科学研究費助成事業(16K04959、16KK0096、20K05320)、ドイツ研究振興会(CRC1277)、欧州連合ホライズン2020プログラム(863098)、スペイン国立研究機関(PID2020-115406GB-I00)の支援を受けて実施されました。

【用語解説】

※1 走査型プローブ顕微鏡
鋭利な針(プローブ)で試料をなぞることで、その形状や性質を観察することができる顕微鏡の総称。後述する原子間力顕微鏡や、走査型トンネル顕微鏡がその一種にあたります。

※2 原子間力顕微鏡
鋭利な針を表面に近づけると、針と表面との間の相互作用により、針を取り付けたカンチレバーの共鳴周波数が変化します。この共鳴周波数の変化を利用して、針と表面に働く力を観測する顕微鏡のことを指します。カンチレバーの振幅を一定で振動させるために必要な仕事から、針と表面との間の相互作用によって生じるエネルギー散逸を評価できます。

※3 第一原理計算
量子力学(第一原理)に基づいて、原子番号だけを入力パラメータとして、非経験的に系の電子状態と安定構造を求める計算手法のこと。

 

詳しくはこちら

Physical Review Letters
Physical Review B