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10 億分の1 秒を捉える超高速マシンビジョン: AI を用いたイメージ処理技術を開発(2023.09.14)

2023年10月16日

 金沢大学理工研究域機械工学系の砂田哲教授、新山友暁准教授、自然科学研究科機械科学専攻博士前期課程の山口智也、修士修了生の荒井航平、埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報部門の内田淳史教授の共同研究グループは、リザバー計算(※1)と呼ばれる小脳を模したニューラルネットワーク(※2)を実装した光集積回路などに基づいて、サブナノ秒(10 億分の1 秒以下)の時間スケールで起こる超高速現象をリアルタイムに認識・検出できる新しいマシンビジョン(※3)技術の原理実証に成功しました。

 近年の人工知能(AI)・機械学習の急速な進展により、コンピューティングの需要が爆発的に増加しています。それに対処する新しいコンピューティング技術として、「光」を利用したニューラルネットワーク(NN)処理および光回路技術が注目され、世界的に開発が進められています。しかし、光の持つ物理的な性質から、既存の電子型NN 回路に匹敵する大規模なNN 回路の開発は難しく、画像のような膨大な視覚情報を高速に処理することは困難と考えられてきました。また、これまで開発されてきた光NN 集積回路の多くは、カメラのようなイメージセンサで取得した画像を処理することを前提にしていたため、通常のカメラでは捉えられない高速な現象の認識や突発的な現象に対する瞬時の情報処理による判断・認識は困難と考えられてきました。

 本研究では、ゴーストイメージング(※4)と呼ばれるイメージング手法に基づき、カメラを用いずに観測対象の画像情報を取得し、それをリザバー計算と呼ばれる光NN 回路で処理する光のマシンビジョン技術を開発しました。これにより、視覚情報の取得からAI での判断プロセスまでを全て光のまま実行できるため、人間では決して捉えることのできない10 億分の1 秒以下(サブナノ秒)のタイムスケールで起こる現象をリアルタイムに認識したり、そこで発生する未知の異常を検出したり、さらにはそのような高速現象の録画・再生が可能になります。

 今後さらに開発を進めることで、これまでにないオンチップ型の超高速イメージプロセッサへの発展が可能となり、基礎科学分野だけでなく、光通信分野や自動運転の事故防止などリアルタイムでの認識・判断・制御が必要となるさまざまな場面での活躍が期待できます。

 本研究成果は、2023 年9 月14 日にNature Publishing Group の『Communications Physics』誌に掲載されました。

図.従来研究と本研究の違い。
カメラで捉えたイメージデータはさまざまな変換や伝送プロセスを伴うため、低遅延処理が困難であるが、本研究はイメージデータを光のまま低遅延で処理可能。イメージを光の時系列データに変換するため、単一入力の光NN でも高速な処理が可能。

【用語解説】

※1 リザバー計算(Reservoir Computing)
時系列データの処理を得意とする再帰型ニューラルネットワークの一種であり、最近では、小脳での情報処理モデルとの類似性が指摘されている。リザバー計算は入出力層に加えて、リザバー層に巨大なランダムネットワークを用いる。再帰型ニューラルネットワークと異なり、ランダムネットワークでの学習は行わないので、簡単な最適化法で 学習が可能である。本研究では、リザバー層として利用するランダムネットワークを光集積回路上に実装している。なお、リザバー計算は、文献によってはリザーバーコンピューティング、レザバーコンピューティング、レザボア計算などとも呼ばれている。

※2 ニューラルネットワーク(Neural Network, NN)
脳内にある神経回路網の一部を模した数理モデルであり、近年の人工知能の中核的機能を担っている。特に、記憶機能として働くフィードバックループを有するニューラルネトワーク(NN)は再帰型NN と呼ばれ、時間変化する情報(時系列データ)の処理に用いられている。

※3 マシンビジョン(Machine Vision)
人間を介することなく、自動的にイメージデータを取得・処理・解析する技術や方法のことであり、ロボットや産業機器に人間の視覚を持たせる技術ともいえる。

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Communications Physics