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光合成を調節するスイッチ動作するしくみを解明(2024.06.12)

2024年09月17日

 金沢大学大学院自然科学研究科物質化学専攻博士前期課程の土田竜也(研究当時)、理工研究域物質化学系の添田貴宏准教授、宇梶裕教授らの研究グループは、豊橋技術科学大学、東京薬科大学等の研究グループと共同で、光合成を調節する光スイッチの動作するしくみを世界で初めて解明しました。

 シアノバクテリアは、緑色光と赤色光の存在を感知して、光合成の光をより効率よく吸収するためのアンテナ分子の組成を調節します。この現象は 1 世紀以上も前から知られていましたが、どのように緑と赤の光を見分けているのか、詳しいメカニズムは分かっていませんでした。そこで本研究では、特にシアノバクテリオクロム RcaE に注目し、この RcaE の緑色光吸収状態(Pg)状態の構造とその詳細の解析を行いました。その結果、本研究グループが以前に発表した、RcaE の赤色吸収状態(Pr)との構造を比較することで、光スイッチ分子がどのように緑と赤を感知しているのかを解明することができました。

 本研究結果は、光合成の環境応答メカニズムの理解への貢献や、光遺伝学などの応用研究の進展への貢献も期待されます。

 本研究成果は、2024 年 6 月 12 日 14 時(米国東部時間)に国際学術誌『Science Advances』に掲載されました。

【本研究のポイント】
  • 光合成を行うシアノバクテリアは、異なる光に応じて最適な光合成ができるよう、光合成に使う光の色を切り替えています。たとえば、一部のシアノバクテリアは、赤い光を使う光合成から緑の光を使う光合成へ、あるいはその逆へと、切り替えることができます。この現象は1世紀以上も前から知られていましたが、どのように緑と赤の光を見分けているのか、詳しいメカニズムはわかっていませんでした。
  • 今回、シアノバクテリアが赤い光と緑の光を見分けるために使っている「光スイッチ分子」において、4つの窒素原子のうち特定の窒素原子のみを安定同位体(15N)でラベリングした発色団を化学合成する手法も取り入れながら、緑の光を感知するときの構造を明らかにしました。同グループが以前に発表した、赤の光を感知するときの構造と比較することで、光スイッチ分子がどのように緑と赤の光を感知しているのかを解明することができました。明らかになったメカニズムは,植物などの他の生物の光スイッチには報告例のない,まったく新しいものでした。
  • この成果は、光合成生物が環境の変化にどのように臨機応変に適応して光合成を行っているのかを解き明かすだけでなく、光によって生物の機能をコントロールするオプトジェネティクス(光遺伝学)のより良いツール作りにもつながると期待されます。



図:シアノバクテリオクロムRcaEによる光色順化の制御

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Science Advances