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先端X線分析により原発事故由来の不溶性セシウム粒子の生成放出過程を解明(2020.07.21)

2020年08月28日

金沢大学理工研究域の山本 政儀 特任教授は、東京大学を中心とする、筑波大学や高輝度光科学研究センター、電力中央研究所などの共同研究グループに加わり、放射光を用いた先端的なX線分析により、福島第一原子力発電所(FDNPP)事故由来の不溶性セシウム粒子(CsMP、※1)の内部構造・空隙率・元素比を解明するとともに、CsMPの原子炉内での生成過程および外部環境への放出過程を明らかにしました。

不溶性セシウム粒子(CsMP)は、FDNPPから放出された放射性セシウム(RCs)を濃集する微粒子ですが、環境中で採取された数が少ないため、その形成・放出過程や周辺での分布状況、形状や元素組成の系統的理解は進んでいませんでした。また、微粒子であることから分析可能な手法が限られており、その完全な性状解明は未だ途上にあります。

本研究グループは、粒子を水に懸濁させて二分割し放射能測定を繰り返す効率的な分離手法を開発し、道路粉塵などの環境試料から67個に及ぶ多数のCsMPを分離することに成功しました。さらに、放射光施設(理化学研究所のSPring-8(※2)および高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF、※3))で進めるマイクロX線CT分析やマイクロビーム蛍光X線分析の最先端X線分析を適用することで、主に50~400マイクロメートル(µm)のCsMP(Type-B、1号機由来)の内部構造や空隙率、微量元素比を明らかにし、その結果を数µmの球状粒子であるType-AのCsMP(2、3号機由来;主に2号機とみられる)の結果と比較しました。その結果、CsMP(Type-B)には球状と不定形の2種の形状があり、これらは最大で50%に及ぶ空隙率を示しました。また、空隙率を補正した正味の単位体積当たりの137Cs放射能は、球状Type-A粒子>球状Type-B粒子>不定形Type-B粒子であり、マイクロビーム蛍光X線分析から得られた揮発性元素と非揮発性元素の比も考慮すると、球状粒子は原子炉内気相中で生成した球形シリカ(SiO2)粒子が揮発性元素を取り込んだものであり、不定形粒子は原子炉内の構造物上でメルトが冷えて生成したものであると推定されました。

本研究成果は、CsMPの生成過程、各号機から外部への放出過程、環境中での分布状態の解明に資するとともに、今後のわが国の原子力発電所の安全な廃炉作業の推進にも貢献することが期待されます。

本研究成果は、2020年7月21日(英国時間)に英国学術誌『Scientific Reports』のオンライン版に掲載されました。

図1. 本研究から推定される1号機および2号機からのCsMPの放出プロセス

 

図2.CsMPの空隙構造の解析例および鉄のK吸収端前後によるマイクロX線CT分析による鉄の3次元分布(3D)の決定CsMPの3次元像のうち、赤色の部分が鉄の分布を示す。

図3.マイクロX線CT分析により得られた球状Type-A、球状Type-B、不定形Type-BのCsMPの各粒子の体積と137Cs放射能の関係

【用語解説】

※1 CsMP
不溶性セシウム粒子。Radiocesium-bearing microparticleの略。通常0.1~400µm程度の大きさで、マスコミなどではしばしば「セシウムボール」と呼ばれる。

※2 SPring-8
理化学研究所が所有する世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設であり、その利用者支援などは高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究を行っている。

※3 フォトンファクトリー(PF)
高エネルギー加速器研究機構の放射光施設であり、フォトンファクトリーは「光の工場」という意味を持つ。X線領域の光まで発生する放射光施設としては日本で最初に放射光の発生に成功した(1982年)。PFでは数度の大きな改造を行い、放射光の高輝度化を図りつつ、最新の技術を取り入れた実験装置の開発や実験環境の整備によって、広い分野の物質・生命科学研究に貢献している。