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宇宙空間で電波を生み出す陽子の集団を発見 ~JAXA人工衛星「あらせ」観測と解析から~(2021.06.29)

2021年07月09日

金沢大学の笠原 禎也教授および国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、京都大学、東北大学らの共同研究グループは、JAXA・宇宙科学研究所の科学衛星「あらせ」(※1)の観測データから、宇宙空間で電波を生み出すイオン(陽子)の集団を検出することに世界で初めて成功しました。

 これは、本研究グループが開発している新しい解析手法によって実現したもので、イオンの集団が動くことによって、電波の周波数が下げられる様子を直接検出したことで明らかになりました。この発見によって、宇宙空間で自発的に電波が生み出されている仕組みが明らかになりました。

 本研究グループが開発した手法は、宇宙空間に存在するイオンによって作り出される電波の発生過程を、観測データを用いて、電波とイオンの運動を詳細に対応づけることで明らかにするもので、2022年打ち上げ予定の欧州、日米の国際共同木星探査ミッション「JUICE」でも活用され、木星系の超高層大気で、イオンが電波を生み出す過程を明らかにしようとしています。このように、宇宙に存在する様々な種類の電波が生まれる仕組みを解明するのに活用されていくことが期待されます。

 本研究成果は、2021年6月29日付英国科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。

図1: 地球周囲の宇宙空間であるジオスペースにおける電波「電磁イオンサイクロトロン波」発生の様子。図右の上は周波数が下がる電磁イオンサイクロトロン波との共鳴の様子、下は周波数が変わらない電磁イオンサイクロトロン波が発生した時の陽子との共鳴の様子を示す。どちらも密度の不均一(山)が観測されるが、周波数が一定の場合から降下するものに変化した時、山が位相角(図中波動磁場Bwと粒子の山のなす角度)の小さい方に移動することが示唆されている。
図2: 上の図は、「あらせ」衛星で観測された電波「電磁イオンサイクロトロン波」の磁場の強さの時間変化を、下の図は「あらせ」衛星による宇宙空間の陽子の観測の時間変化を示す。縦軸に図1に示した波との位相角度を表す。色で陽子の数の多さを示し、各時刻の最大値を点で示している。点線で示した、電波の周波数が下がる時間前後から位相角度が中心(180度)付近から小さい値に移る様子を示しており、図1における陽子の密度の山の移動に対応している。

【用語解説】

※1 科学衛星 「あらせ」
 JAXA・宇宙科学研究所が2016年12月にイプシロンロケットで打上げた人工衛星。放射線帯の電子の数が変化する仕組みの詳細が解明されることが期待されている。

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