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光反応のエネルギー効率を大幅に向上させる新技術を開発光磁場で三重項状態の直接励起を実現(2021.10.13)

2021年10月13日

理工研究域物質化学系の古山渓行准教授(JSTさきがけ研究員)および神戸大学大学院工学研究科の杉本 泰 助教(JSTさきがけ研究員)、藤井 稔 教授らの研究グループは、光磁場を増強するナノ構造を形成し、分子のスピン反転を伴う光学遷移を大幅に促進する技術を開発しました。

分子の励起三重項状態(※1)は、寿命が長く様々な光化学反応に利用されます。しかしながら、基底(一重項)状態から三重項状態への励起は電子スピンの反転を伴う“禁制遷移”であるため、三重項状態は項間交差(※2)を介した間接的な過程で励起されています。本研究では、誘電体ナノ構造の配列構造(光メタ表面)の磁場増強効果を利用して、これまでほとんど考慮されなかった“磁気双極子遷移(※3)”を促進し、三重項状態間の励起効率を飛躍的に増大させることに成功しました。また、従来よりも低いエネルギーの光でターゲット分子を励起三重項状態にすることを実現しました。

図1.分子の光励起過程と増強磁場による一重項(S0)-三重項(T1)直接励起の概要図。

本成果は、分子の光励起のエネルギー効率を大幅に向上させる新しい技術であり、今後、新しい光反応制御手法の開発につながると期待されます。

この研究成果は、10月13日に、国際科学誌『Small』に掲載されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究事業 さきがけ「電子やイオン等の能動的制御と反応」研究領域(研究総括:関根泰)における研究課題「Mie共鳴による磁場増強を利用した光化学反応プラットフォームの構築」(研究者: 杉本 泰)および「光触媒の能動的制御による近赤外光合成プロセスの開発」(研究者: 古山 渓行)の支援を受けて行われました。

図2. (a)シリコンナノディスクからなるメタ表面と(b)ナノディスク上のルテニウム錯体の模式図。(c)本研究で用いたルテニウム錯体のエネルギー準位図。

【用語解説】

※1 励起三重項状態
基底状態と励起状態の電子スピンが互いに平行な(同じ向き)状態。

※2  項間交差
異なるスピン多重度をもつ状態間の遷移。ここでは特に、励起一重項(S1)状態から励起三重項(T1)状態への遷移を指す。

※3  磁気双極子遷移
物質内の電子と光(電磁波)との相互作用による光学遷移のなかで、磁気モーメントと光の磁場成分との結合が支配的であるもの。

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