ニュース

植物が根の表面から『毛』を伸ばす仕組みを発見!(2023.04.03)

2023年04月03日

 金沢大学理工研究域生命理工学系の高塚大知助教、奈良先端科学技術大学院大学らの研究グループは、植物が根の表面に形成される毛状の細胞である『根毛』を長く伸ばす仕組みを解明しました。

 植物の根の表面に見られる毛状の細胞である「根毛」は、根全体の表面積の50%以上を占めます。根毛が伸びると根の表面積が増えるため、水分・養分の吸収効率が高まります。従って、この『毛』の長さを決める仕組みの解明は、近年、世界的に喫緊の課題となっている、異常気象に起因する作物の生育不良に対処する上で重要な知見となります。今回、本研究グループは、植物ホルモンの一つであるサイトカイニン(※1)が、根毛細胞内で、サイトカイニン応答を引き起こす中心因子であるARR1およびARR12タンパク質の活性を高め、根毛伸長の鍵因子であるRSL4遺伝子を活性化することで、根毛長を増大させることを明らかにしました。

 当研究グループは、2018年に、根毛を作る細胞以外の根の細胞でサイトカイニンが細胞伸長を制御する仕組みを解明するなど、植物細胞の伸長現象について多角的に研究を進めています。これまでの研究成果と合わせて、本研究成果は、変動する環境下で安定した植物バイオマス生産を実現する技術開発につながり、SDGs17の目標のうち、「2:飢餓をゼロに」「7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「15:陸の豊かさも守ろう」に貢献することが期待されます。

 本研究成果は、2023年3月13日に国際学術誌『Journal of Experimental Botany』のオンライン版に掲載されました。

研究成果の概要

 本研究グループは、サイトカイニンの根毛長に対する役割を分析する中で、モデル植物のシロイヌナズナにサイトカイニンを外的に投与すると、根毛長が50%程度増大することを見出しました(図1)。一方、サイトカイニンに対しての応答性が低下した変異体(サイトカイニン受容体であるAHK3およびAHK4を欠損した二重変異体、およびサイトカイニン応答を引き起こす実働因子として働くARR1、ARR12転写因子を欠損した二重変異体)では、野生型植物よりも根毛長が短く、また、サイトカイニンを投与しても野生型植物で起こる根毛長の増大が全く起こらなくなることを発見しました(図2)。これは、AHK3とAHK4によって受容されたサイトカイニンが、ARR1とARR12の働きを活性化することで、根毛の伸長を促進することを示します。

図1: サイトカイニン投与による根毛伸長の促進効果
サイトカイニンを投与していない個体(なし)と投与した個体(あり)の根の写真(左:根の全体の様子、右:根毛の拡大図)。投与した個体では、根毛の伸長速度が大きく(青線)、最終的な根毛の長さも長い。スケールバーは500 µm。

図2: arr1/12二重変異体では根毛が短くなる
サイトカイニン応答を誘導する転写因子であるARR1とARR12の機能を欠損した二重変異体の根毛の様子。野生型植物に比べ,根毛が短い。また,野生型で見られるサイトカイニン投与による根毛長増大も殆ど起こらない。スケールバーは100 µm。

 

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「細胞の動的高次構造体」(研究総括:野地博行、JPMJPR22E6)、日本学術振興会科学研究費助成事業(基盤研究(C)、22K06293)、文部科学省卓越研究員事業、金沢大学・自己超克プロジェクト、金沢大学・先魁プロジェクト2022の支援を受けて行われました。

【用語解説】

※1 サイトカイニン
植物ホルモンの一種。サイトカイニンは膜上の受容体(AHK3、AHK4など)により感知され、そのシグナルが転写因子(ARR1、ARR12など)に伝達され、様々な遺伝子発現を活性化する。

詳しくはこちら(PDF)
Journal of Experimental Botany