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昆虫の生得的行動を制御する 神経細胞集団を解析する新技術を確立!(2023.08.07)

2023年08月31日

 金沢大学理工研究域生命理工学系の木矢星歌研究協力員(日本学術振興会特別研究員RPD)、自然科学研究科自然システム学専攻修士修了生の塩谷捺美さん、疾患モデル総合研究センターの西内巧准教授、自然科学研究科生命理工学専攻/ナノ生命科学研究所の岩見雅史教授、理工研究域生命理工学系の木矢剛智准教授らの研究グループは、昆虫の脳において,行動の際に活動が起きた神経細胞を可視化し、さらに光によって再活性化することができる新技術を確立しました。また、本技術を用いて、異なったタイミングの行動時に活動した神経細胞を、同一個体内で個別に標識する手法を確立し、昆虫の脳内において、オスやメスにのみ反応して活動する細胞を同定することに成功しました。

 昆虫は多様な生得的行動(本能行動)を示しますが、これらの行動がどのような神経回路の働きによって生み出されているのか、不明な点が多く残されています。
 今回、本研究グループは、モデル昆虫であるショウジョウバエを用い、神経活動依存的に発現する遺伝子のゲノムワイドスクリーニングによってstripe という遺伝子を発見しました。また、stripeの転写活性を利用し、神経回路を可視化・操作する技術を確立しました。本技術を用いて、交尾や攻撃行動を示したオスのショウジョウバエの脳で活動が起きた神経細胞を、緑色蛍光タンパク質(GFP)(※1)で可視化しました。また、この可視化した神経細胞にチャネルロドプシン(※2)を発現させることで、光照射によってオスの交尾行動を誘発させることや、内向き整流性カリウムチャネルを発現させることで、オスの交尾行動を抑制することに成功しました。さらに、2つの異なったタイミングで起きた神経活動を、同一個体内でそれぞれ別個に標識できる新技術を確立し、オスのショウジョウバエの脳では、オスやメスだけに特異的に反応して活動する細胞があることを明らかにしました。

 これらの知見は将来、さまざまな昆虫の生得的行動の神経基盤の解明及び行動の制御に活用されることが期待されます。

 本研究成果は、2023年8月7日午後3時(米国東海岸標準時間)に米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences」のオンライン版に掲載されました。

図:オスのショウジョウバエが交尾行動を示した際に活動した脳の神経回路を可視化した。
交尾行動時に神経活動が起きた細胞をGFP(緑色)で可視化した。交尾行動をしていないオス(左)と、交尾行動をしたオス(右)の脳の写真。交尾行動をした場合にだけ見られる神経回路を黄色の矢印で示している。スケールバーは100μm。

 

 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業、金沢大学さきがけプロジェクト2022、武田科学振興財団、岸本基金研究助成の支援を受けて実施されました。

【用語解説】

※1 緑色蛍光タンパク質(GFP)
下村侑博士(2008年にノーベル化学賞を受賞)によってオワンクラゲから発見されたタンパク質。青色の光を当てると緑色に光るため,神経細胞の可視化に使用される。

※2 チャネルロドプシン
藻類から発見された光駆動型のイオンチャネル。光によってチャネルの開閉が制御されるため,神経細胞に発現させると,光によって神経活動を制御することが可能となる。

 

詳しくはこちら

Proceedings of the National Academy of Sciences