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ガンマ線と可視光偏光の同時観測で迫る ブラックホールからの光速ジェット噴出の(2023.11.23)

2023年11月24日

 金沢大学理工研究域先端宇宙理工学研究センター/数物科学系の有元誠准教授および東京大学宇宙線研究所高エネルギー宇宙線研究部門の浅野勝晃教授、広島大学宇宙科学センターの川端弘治教授、東北大学学際科学フロンティア研究所の當真賢二教授、メキシコ国立自治大学、イスラエル・オープン大学を含む国際共同研究グループは、フェルミ宇宙ガンマ線望遠鏡衛星(フェルミ衛星)(※1)と東広島天文台かなた望遠鏡(※2)を用いて、宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バーストからのガンマ線と可視光偏光の同時観測に成功しました。ガンマ線バーストは、光速に近い速さでブラックホールからジェットが噴き出し、そのジェットからガンマ線が放射されると考えられているものの、その放射メカニズムやジェット駆動機構は謎に包まれていました。本研究ではガンマ線と可視光の同時観測により、ジェット内部を逆方向に進む衝撃波(※3)がガンマ線放射に大きく寄与していることが初めて分かりました。さらに、本研究では、光の向きの偏りを調べることができる偏光観測を爆発発生から80秒後という極めて早い時間帯で観測できました。このことは、「ガンマ線バーストのジェット内部に2種類の衝撃波が存在し、それぞれの衝撃波の磁場構造が全く異なる」ことも新たに明らかにしました。ジェット内部で作られる衝撃波によって高エネルギー粒子が誕生し、その粒子が磁場と作用することでガンマ線が生じると考えられています。つまり、ガンマ線の放射起源を知る上で、磁場はなくてはならない情報であり、ガンマ線を放つジェット内部の磁場構造を明らかにできたのは本研究が初めてです。また、ジェットを光速近くまで加速する機構として、磁場駆動モデルが提案されていますが、そうしたモデルに制限を与える重要な結果となります。

 本研究により、ガンマ線バーストの放射メカニズムやジェットの組成・生成の理解が大きく進展しました。光速まで加速されたジェットはガンマ線バーストだけでなく、さまざまな天体現象でも存在しており、本研究の成果が多くの謎に満ちたジェットの解明にも繋がる可能性があります。さらに今回のような広い波長での同時観測が、今後のマルチメッセンジャー天文学においても大きな役割を果たすことが期待されます。

 本研究成果は、2023年11月23日16時(英国時間)に英国科学誌 Nature Astronomyのオンライン版に掲載されました。

ガンマ線バーストのイメージ図
(Copyright: 2023 金沢大学、イラスト制作:武重隆之介・髙橋壮一)

 

 本研究は、日本学術振興会卓越研究員事業「X線・γ線で明らかにする重力波候補天体ガンマ線バーストの起源」、文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)「高エネルギー観測で探る重力波天体」(17H06362)、学術変革領域研究(A)「マルチメッセンジャー宇宙物理学:静的な宇宙から躍動する宇宙へ」(23H04898)、金沢大学超然プロジェクト「宇宙創成・極限時空研究拠点の形成」、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構、JAXA宇宙科学研究所等の支援を受けて実施されました。

【用語解説/補足】

※1 フェルミ宇宙ガンマ線望遠鏡衛星(フェルミ衛星)
日米欧の国際チームで開発された高エネルギーガンマ線観測用天文衛星であり、2008年に打ち上げられた。全天をサーベイしながら、広い天域を常に監視している。日本のフェルミ衛星チームは、金沢大学に加え、広島大学、東京大学、名古屋大学、早稲田大学、茨城大学、大阪大学、立教大学、青山学院大学、山形大学等の研究者で構成されている。 フェルミ衛星に搭載されたガンマ線大面積望遠鏡は、日本が開発に大きく貢献したものであり、打ち上げ後も日本人メンバーがデータモニター、突発天体監視、データ解析などで貢献を続けている。

※2 かなた望遠鏡
広島大学宇宙科学センターが運用する口径1.5mの光学望遠鏡で、2006年に竣工した同センター附属東広島天文台に据えられている。ガンマ線バーストのアラートが届くと即座にその到来方向へ望遠鏡を向けて可視光偏光観測を開始するなど、宇宙の突発現象の観測的研究においてユニークな活躍を見せている。

※3 衝撃波
流体が音速の速度を超えて流れている時に、音速を超えた超音速の領域と低い速度の領域の境で、圧力などが急激に変化して生じる不連続面のことを言う。この衝撃波によって、運動エネルギーが熱エネルギーなどに変換され、高エネルギー粒子の加速に対して大きな役割を担っている。

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Nature Astronomy