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能登半島北東部の温泉水から深部流体成分の混入と 化学成分の変動を観測(2024.05.24)

2024年05月28日

 能登半島北東部を震源とする群発地震が長期的に継続しており、地下深部に存在する流体の挙動が地震の原因となっている可能性が指摘されています。富山大学・金沢大学・東京大学・高知大学からなる研究チームは、深部流体の供給源が直下に存在すると考えられている震源集中地域内に位置する温泉を調査し、2022 年以降に顕著な化学・同位体組成の変動を観測しました。これはマントル起源物質を含む深部流体成分の混入率の変化などを反映したものと考えられます。
 本研究成果に関して日本地球惑星科学連合 2024 年大会(開催日:2024 年 5 月 26 日から 31 日)で研究発表が行われる予定です。予稿は、それに先立ち同学会ウェブサイトにて 2024 年 5 月 17 日(金)(日本時間)に掲載されました。

ポイント
  • 群発地震の震源が集中している能登半島北東部の温泉を定期的に調査し、化学・同位体組成の時間変動を測定しました。
  • 深部流体成分の混入を示す高いヘリウム同位体比を流体の上昇域直上で観測しました。
  • 調査の結果、地震活動・地殻変動に伴う、マントル起源物質を含む深部流体成分の混入率の変化などを反映していると考えられるデータが得られました。
研究の内容・成果

 本研究チームは、能登半島北東部の地能登半島北東部の温泉水から深部流体成分の混入と化学成分の変動を観測震現象・地殻変動に伴い地下で生じた物質循環を解明することを目的として、当該地域の温泉水・遊離ガスの化学・同位体組成の時間変動を調査しました。
 2022年6月から2024年2月にかけて、定期的に能登半島北東部の8か所(図1)で温泉水・遊離ガス試料を採取し、イオン濃度や同位体比を測定しました。
 地点ASYでは、特に顕著な化学データの変動が観測されました。この地点は、深部流体の供給源が直下に存在する可能性が指摘されている震源集中地域上に位置します。陰イオン濃度、水の酸素同位体比(δ18O値)・水素同位体比(δD値)に関しては、2023年5-10月においては2022年時点よりも低い状態が継続しましたが、その後2024年1月のM7.6地震直後にかけて上昇し、2022年時点と近い値に変動しました。
 また、大気成分を補正した3He/4He比(※)は2022年から2023年7月にかけて顕著に低下し、その後2024年1月のM7.6地震直後にかけて2022年時点の値と同程度まで上昇しました。陰イオン濃度やδ18O値、δD値の変動は、地震活動に伴う岩盤の透水性の変化と関係しているものと考えられます。3He/4He比の変動は、深部流体の挙動に伴うマントル起源物質を含む深部流体成分の混入率の変化や、岩盤亀裂の増大に伴う一時的な水-岩石反応の促進を反映した可能性があります(図2)。

図 1. 能登半島北東部における調査地点

○印は本研究の調査地点、×印は 2024 年 1 月 1 日に発生した M7.6 地震の震央を示します。また、破線部の断面模式図を図 2 に示します。本図は「地理院地図(電子国土 Web)」(国土地理院)で出力した図を修正して作成しました。

 

図2. 地点ASY地下における物質循環の模式図

3He/4He比のデータから推定される地点ASY地下の物質循環像を示します。本図はNishimura et al. (2023, Scientific Reports 13, 8381)のFigure. 4を基にして作成しました。

用語解説

 3He/4He比
ヘリウムの安定同位体比をこのように表します。ヘリウムには質量数3と4の安定同位体が存在し、主に3Heは地球形成時に宇宙空間から固体地球内部に取り込まれた始原的な成分、4Heはウランやトリウムの放射壊変で生成されたα粒子です。マントル中の3He/4He比は地殻や大気よりも高いため、温泉水・地下水中の3He/4He比が高ければ深部(マントル)起源物質の混入率が高いと解釈することができます。

 

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