ガラス表面の「ナノ水滴」の挙動を 可視化することに成功!(2024.05.10)
2024年06月26日
金沢大学理工研究域数物科学系の荒木優希助教、新井豊子教授、自然科学研究機構分子科学研究所の湊丈俊主任研究員の研究グループは、ガラス表面でナノメートルサイズの水滴が形成する様子を捉え、それらの微小な水滴が動き回る特異な挙動をその場観察することに成功しました。
本研究では、湿潤な大気中において、シリカガラス表面がぬれる過程を高分解能AFM(周波数変調原子間力顕微鏡: FM-AFM(※1))で観察した結果、湿度の上昇に伴ってナノメートルサイズの水滴(ナノ水滴)が自発的に形成されることを明らかにしました。これは、先行研究によって提案されていたぬれモデルとは異なり、ナノ水滴が湿度とともに大きくなってぬれが広がるのではなく、高湿環境でも水滴の状態を維持していることが分かりました。さらに、ピークフォースタッピング原子間力顕微鏡(PFT-AFM)(※2)を用いてガラス表面の凝着力を測定することにより、ナノ水滴はガラス表面に直接形成しているのではなく、ガラス表面のゲル状膜の上に形成していることが示されました。ナノ水滴を可視化したことにより、これらの水滴がガラス表面を動き回る様子を捉えることに成功し、マクロな水滴とは異なる挙動が明らかになりました。ナノ水滴が固体表面での物質の輸送に影響している可能性も考えられ、触媒効果などさまざまな現象に関与していることが期待されます。今後、その形成メカニズムを明らかにすることで、ガラス以外の物質においても見られる普遍的な現象であるか検証していく予定です。
本研究成果は、2024年5月10日に国際学術誌『Scientific Reports』のオンライン版に掲載されました。
図1:ガラス表面に形成したナノ水滴。
湿度50%以上で観察され,湿度を30%付近まで下げると消失した。
スケールバーは500 nm。
🄫🄫 2024 Araki, et al., Scientific Reports, CC BY 4.0
(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(基盤研究(C)、23K04581)、令和3年度科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境イニシアティブ(先端型)」令和4年度女性研究者大型研究費申請支援制度の支援を受けて実施されました。また、本研究の一部は、文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム」事業(S-21-MS-0007)および「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(JPMXP1222MS0005)の支援を受け、自然科学研究機構分子科学研究所で実施されました。
用語解説
※1 周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)
原子レベルで先鋭な探針で試料表面を走査して表面構造を原子スケールの高分解能で観察することができる原子間力顕微鏡(AFM)の一種。探針と試料の間にはたらく力によるカンチレバーの振動変化を周波数変調(FM)方式で検出することで、固体表面の高分解能観察だけでなく、その表面に吸着した水の構造(水和構造)の観察なども可能である。
※2 ピークフォースタッピング原子間力顕微鏡(PFT-AFM)
AFMの一種。探針を試料表面に接近・離脱させながら、接近時・離脱時の探針にかかる力を測定する手法。pN(ピコニュートン)という非常に微小な力を計測することにより、試料表面の凝着力や弾性率などのマップを得ることができる。