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宇宙では、波から波へのエネルギー輸送をイオン中継(2021.12.11)

2021年12月14日

金沢大学学術メディア創成センター 笠原 禎也 教授、理工研究域電子情報通信学系 松田 昇也 准教授らの共同研究グループは宇宙空間においてプラズマの波が、イオンとの相互作用を介して別の波へと変わる様子を、世界で初めて発見しました。

地球や惑星周辺の宇宙空間には希薄ながらもイオンや電子が存在します。これらのイオンや電子はエネルギーの低いものから高いものまで様々な状態で存在することが知られていますが、なぜこのような多様性が生まれるのかは分かっていません。

私たちは「あらせ」衛星(※1)の観測データに新しい解析手法を適用し、宇宙空間に存在する磁気音波と呼ばれる電波がイオンを温め、さらに、温められたイオンがまったく別のイオン波と呼ばれる電波を新しく作り出している証拠を見つけ出すことに世界で初めて成功しました。磁気音波はエネルギーの高いイオンによって生成されると考えられています。また、イオン波は、宇宙のイオンを散乱させ、プロトンオーロラ(※2)と呼ばれるオーロラを光らせることができると考えられています。

今回の発見は、エネルギーや起源が異なるイオン・電子が電波を介してエネルギーをやり取りする過程の一端を実証的に観測したもので、宇宙空間に存在するイオン・電子のエネルギーの多様性を実証する重要な成果です。

本研究成果は、2021年12月11日午前2時(日本時間)付アメリカ物理学会速報誌『Physical Review Letters』に掲載されました。

図1: 地球をとりまく宇宙空間 (ジオスペース) に存在するイオン・電子の様々な領域
図2: (A) 2018年2月10日17:37:20-38:00 (UTC) に観測された衛星スピン軸方向の磁場変動強度、(B) 同時期に観測された水素イオンのエネルギースペクトル

本研究で開発された「波動粒子相互作用解析」の手法は、2022年に打ち上げられる予定の欧州、日米の国際共同木星探査ミッション「JUICE」でも活用され、木星系の超高層大気で、イオンが電波を生み出す過程を明らかにしようとしています。この手法を用いることで、宇宙に存在する様々な種類の電波とイオン・電子との間のエネルギー輸送、さらには多様なエネルギーを持つイオン・電子が同時に存在している理由を解明していくことが期待されます。

【用語解説】

※1 「あらせ」衛星
2016年12月20日にイプシロンロケット 2号機によって打ち上げられた、ジオスペースをその場観測によって探査する衛星。バン・アレン帯などの超高エネルギー粒子が蓄積されている領域を継続的に観測するため、非常に厳しい放射線環境の中ではあるが、現在も順調に観測を行っている。

※2 プロトンオーロラ
水素イオンが大気に向かって降りこみ、大気粒子と衝突することによって発生するオーロラ。電磁イオンサイクロトロン波が宇宙空間でイオンを散乱すると、散乱されたイオンの一部が大気に向かって降り込み、プロトンオーロラを発生させると考えられている。

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