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有機固体電解質中のプロトン伝導メカニズムを解明高効率な燃料電池の設計指針に(2021.06.03)

2021年06月15日

金沢大学理工研究域物質化学系の井田 朋智 准教授、ナノマテリアル研究所の水野 元博 教授、筑波大学計算科学研究センターの堀 優太 助教の共同研究グループは水分子を含まない無水プロトン伝導物質(※1)として、コハク酸とイミダゾールから成るプロトン伝導性有機結晶(コハク酸イミダゾリウム)を対象に、分子中のプロトンの位置や動きを可視化し、分子レベルでのプロトン伝導メカニズムを解明することに成功しました。

理論計算と実験を組み合わせ、結晶内のプロトン伝導が関わる「分子構造変化」、「分子運動」、「プロトン移動」の関係性を調べたところ、結晶内での整列された分子構造中で、イミダゾール分子の回転運動とイミダゾール‒コハク酸間のプロトン移動が連動することによって、結晶内で効率的にプロトンが輸送していく様子が明らかになりました。

今回の結果から、燃料電池の固体電解質材料として、高いプロトン伝導性を示す無水プロトン伝導物質を設計するためには、分子の回転運動やプロトン移動を効率的に引き起こす材料の探索が重要であることが示唆されました。

本研究成果は、2021年6月3日に米国の科学雑誌『The Journal of Physical Chemistry Letters』に掲載されました。

本研究は、科研費、新学術領域(ハイドロジェノミクス)、(公財)マツダ財団研究助成によって実施されました。また、本計算の⼀部は、九州大学情報基盤研究開発センター研究用計算機システムを利用しました。

図1: コハク酸イミダゾリウム結晶中のプロトン伝導の様子
コハク酸イミダゾリウム結晶は、コハク酸分子とイミダゾール分子によって構成される。イミダゾール分子の回転によって作られる通路に沿ってプロトンが移動する。赤は酸素、青が窒素、灰色が炭素、白が水素を表す。
図2: ポテンシャルエネルギーダイアグラム(グラフ部分)および、イミダゾール分子の回転とプロトン移動の関係

【用語解説】

※1 無水プロトン伝導物質
水分子を含まない、外部電場を印加したときにプロトンが長距離に伝導する物質。

有機固体電解質中のプロトン伝導メカニズムを解明